キスの話

 

キスは日本全国の沿岸や内湾の砂泥に棲む暖海性の小魚で、南日本に多い魚です。底流し網、底びき網、小型定置網などで漁獲され、船釣りや投げ釣りの対象にもなっています。昭和40年代頃まで、深箱(勿論木製)に、頭を上に斜めに立てられて九州方面から貨車に積まれて沢山のキスが築地に来たものでした。

正式名はシロギス、スズキ目キス科の魚で、英語名は(chu)(冗談です)

キスを表すために、作字「鱚」がありますが、この字は、キスの呼称の語源と関係なく、難訓辞典には「生直」(キ)は接頭語、(ス)は性質が素直で飾り気がないこととでています。キスの姿は、何の飾り気もなく、清楚で性質は温和、味は淡泊で「生直」の字義にピッタリです。単にキスと呼ぶ所は関西以東に多く、関西以西では「キスゴ」と呼ぶ所が多い様です。「ゴ」は魚名語尾です。

キスは夏の季語で、「六月の鱚は絵に描いたものでも食え」と言われたもので、旧暦六月のキスは最高の味がするという俗言です。

釣って良し、食べて良しの魚、まずは釣りの話から。可憐な姿で、引きが強いため、又手軽に楽しめるために人気は抜群です。単にキスという場合はシロギスを意味しますが、「食べたらシロギス、釣ったらアオギス」と言われる位、アオギス釣りは、妙味のある釣りの様でした。月刊「東卸」575号に紹介した通り、戦前まで東京湾の風物詩だった「脚立釣り」は有名でしたが、今は九州の豊後海と中国・四国地方の一部に残っている寂しさです。

広々として砂浜でのキャスティングも気持ちのいいものです。私も一度しか経験がありませんでしたが、小田原で、テトラポットを背に釣りました。釣れたキスが、海岸の砂を塗して上ってくる光景が、未だに忘れられません。「キスの投げ釣り、足で釣れ」という格言の通り、潮上にポイントを移しながら、初めての釣りとしては大釣果を上げた想い出がありました。

キス釣りの外道にトラギスが混じります。トラギスはギンポ科の仲間で、キスとは無関係です。トラギスも夏の季語。

食の話。

キスの話を書こうと思った時、「旨い」という言葉を何回使うか心配だったのですが、いまだに使用していません。この調子では一度位ですむかな。

不味い時がない位、いつ食べても旨い魚だと私は思います。旬は夏です。

優しい姿に似ず、ウロコはざらつくし、腹を割くと腹腔の内面が黒く、ワタが透明な体を通して見えるのを防いでいます。針魚の腹が黒く、腹黒い美人にたとへられるのに、キスを悪くいう人は一人もいないのは?美しい姿と上品な味わいのせいでしょうか。

糸造りの刺身、これが一番とすると二番目は天ぷらでしょうか。天ぷらは頭とウロコとワタだけを取った唐揚もいいです。くせのない淡泊な白身魚ですから、皆さんが喜んで食べていただける魚です。おまけに昆布じめや風干しも。