泥鰌

 

東京では“踊り子”とも言われ、夏バテにはこれが一番と言われる泥鰌の話です。

この稿が出るのが9月末ですから、ちょいと時期が外れますが、今年は何年ぶりという暑さが続いていますので、夏が旬のどじょう料理をふぅふぅ言いながら食べましょう。

ささがしの牛蒡のそばで皆ごろし

ぶっそうな句ですが、ささがしとは「笹掻き」の江戸なまりで、皆ごろしになっているのがどじょうです。「まる」と呼ばれる尾頭付きの姿煮、「ぬき」と呼ぶ、頭と内臓を除き、裂いて開いたどじょうの身に割り下を合わせ、上にネギを山盛りにした鍋や、裂いて開いたのと笹掻き牛蒡を合わせて卵でとじる「柳川鍋」が主流です。川柳に詠まれる頃の江戸時代では、ネギは使わずに生きたまんまと「ささがし」を煮込んだ汁沢山が味噌と七味で食べられていたようです。それ以前の室町時代では、味噌汁でどじょうの美味しさを発見したようです。強壮や養生の薬とされ、気力を増し精力を強くするもので、

こがれ添う聟へ馳走の鰌汁

という川柳もあります。その他鍋に関しての川柳も二つご紹介します。

鍋蓋へ力を入れるどじゃう汁

念仏も四五へん入れるどじゃう汁

よく考えて、後で笑ってください。

さて、どじょうは私にとって、扱ったことのない魚の一つで、幼少の頃、友達から、鍋に豆腐を仕立ててどじょうを入れると苦しがって豆腐に頭から突っ込んで往生する話を聞いたことを覚えています。また市川にいた頃、小さな池に黄色いどじょうを飼っていたことも。長じて、落語を聞き始めた頃の三代目三遊亭金馬「居酒屋」に出てくる「どぜう汁」の濁りをとって「とせうけ」と読む話もです。

広辞苑の一版でも第五版でも「どぜう」ではなく「どじょう」で、インターネットでは「どぜう」でどじょうを紹介しています。また漫画家であり、江戸風俗研究家でもあった杉浦日向子さんは、こんなことを言っています。「どじゃう」は「どじょう」が存命中の呼称で、「どぜう」は「どじょう」が食い物になった呼称である。だから、田んぼに「どぜう」はいないし、はふはふつつく鍋に「どじゃう」はいないと。

どじょうは日本の淡水に産れ、泥の中に生息しています。口ひげがあるのが特徴の一つで、5対10本あります。

昭和の初期には漁獲量が5000tあったと推定されていますが、戦後は農薬散布の影響や、最近の都市化や水田の整備などで生息場所を失い、2003年には69tにまで減少しました。1970年以降、水田などで養殖されています。

昔から、俗に「ウナギ一匹、ドジョウ一匹」と言われ、わずか1匹でウナギ1匹に匹敵する栄養価をもっている夏バテに効くどじょうを是非。

「柳川鍋」「どぜう鍋」「泥鰌汁」は夏の季語。

「緋泥鰌」と呼ばれるオレンジ一色の白変種もあります。