父の従兄弟が漁師で伝馬船を持っていたので、夕方になると外川の沖に網を仕掛けに行き、底刺網でしょう、朝、暗いうちに出掛けて網を上げてきます。勿論一人です。当時は船外機もない時代ですから櫂で船を出します。

蟹の掛かった網を叔父の家の土間に持ち込んで、網から渡り蟹を外すのが一仕事で、生きた蟹に挟まれないように3年生は大勢の大人に混ざって手伝いました。店で売る手前もありましたから。

小学校5年生の夏休みまで続けていた外川での手伝いも、6年生の夏には学童疎開で行けなくなりました。想い出の出来事が何年生の時か思い出せませんが、ありました。

私と並んで蟹を外していた父が蟹に小指を挟まれたのです。甲の幅が20cm以上ある渡り蟹の螯に挟まれたのですから。

この時初めて父の涙を見ました。大人が二人でベンチで片方ずつ挟んで、やっと離しました。

ワタリガニが通り名になっていますが、アドレスは十脚目ワタリガニ科ガザミ属でガザミが標準和名です。

甲羅は菱形で左右に長く伸びてその先がとがっています。甲と鋏脚は石灰質でとても硬く、特に鋏の刃の歯牙が鋭く硬いのです。挟まれるとものすごく危険で、普通太い輪ゴムで鋏を甲に縛って出荷します。

生きている時は、背側は黒っぽい紫か緑色で、蒸したり茹でると鮮やかな赤に、腹側は半透明から白に変わります。

腹側の下部に俗に腰巻という甲羅と体を繋げる役目をしているものがついています。ふんどしとも呼ばれていますが、ふんどしの幅の広いのが雌で、狭いのが雄です。

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