Category: 冬の魚の話をしましょう (page 2 of 4)

カペリン(2013年12月)

カペリン

 

日本に於けるカペリンの出現は、然して古いことではなく、戦後しばらくして、柳葉魚があまりにも有名になって高値になったことに由来するようです。北海道の太平洋岸だけで獲れる柳葉魚は、産卵場の環境悪化や親魚の乱獲などの影響で資源が減少しています。

この柳葉魚の代替として食べられていたのが、カペリンことカラフトシシャモで、日本では北海道のオホーツク海のみに産する魚です。

シシャモもカラフトシシャモも同じキウリウオ科の魚で、よく似ていますが、よく見ると簡単に区別できます。カラフトシシャモは、シシャモより口が大きく、鱗が細かいこと、鱗がないように見えます。それに体がやや細長いのが特徴です。

鮮魚で見る機会は殆どないと思いますが、築地市場には10月末頃、時々入荷します。

前号ではカラフトシシャモと予定していましが、英名カペリンの名が呼び易いようです。

このカペリン、水産業上でも色々な役割を果たしています。

太平洋と大西洋の寒帯域、北海道の浅海域に分布していますが、大西洋での生産量が膨大で、海鳥・クジラ類・鱈・オットセイなどの天然の飼料となっています。そのほか、肥料・魚粉・魚油などに加工され、卵を抱いている雌が日本向けに輸出されます。カペリンの卵だけを集めて冷凍したものも輸入されています。これにトビウオの卵や数の子を混ぜ、醤油・酒などに漬け込み「トビッコ」などと呼んで、お寿司の種に使われています。カペリンの卵は非常に味がよいことから、雌は「子持ちシシャモ」の塩干品に、雄は佃煮などに加工されます。

魚にはそれぞれの美味しさがあり、そして、人の好みもそれぞれです。是非食べ比べてみてください。

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アオメエソ(2013年2月)

アオメエソ

 

魚屋さんで「アオメエソ下さい」と言っても、判らない人が多いと思う位知られていなかった?魚です。今から20年位前に世に出てきた魚で、私もそれまで見たことも、勿論、売ったこともなかった魚でした。「知る人ぞ知る」といった魚で、地元では昔から干物とか唐揚げなどに消費されていた、所謂、地産地消の「地の魚」でした。メディアの紹介とか物流の発達も重なって、各地から食材の発掘?がなされ、ブランド化にも繋がってきたものと思われます。前置きが長くなりましたが、アオメエソは東京でいう「メヒカリです。

築地で初めて見た時は、確か、小名浜から入荷した魚でした。風采の上がらない?色気のない魚と記憶しています。

メヒカリの所番地です。漢字名で青目狗母魚、英語名はgreeneyes(緑の眼)。学名でも葉緑素の目と言いますから、青緑色の大きな目が光ることが特徴です。地方名のメヒカリも、魚の特徴を捉えたいい名前です。中国でも「大眼青眼魚」の名が付けられています。

アオメエソには頭長と目窩径が違うマルアオメエソの近似種がありますが、マルアオメエソはアオメエソの北方型である可能性が強い、つまり、マルアオメエソは銚子以北の常磐物、我々が以前扱っていた福島県・原釜辺りの魚で、現在、築地に入荷している宮崎県・延岡等、相模湾以南の魚はアオメエソとなります。

いずれも水深200~600mに生息する深海魚です。7月と8月の禁漁期間を除いて底曳き網で漁獲されますが、生鮮での利用は少なく、干物や練製品の材料に使われます。市場でも小分けされて売られていますから、家のお惣菜に、鮮度の良い物は山葵醤油でお刺身に、天ぷらも唐揚げも、一夜干も旨いですよ。

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寒ブリ・寒ボラ・寒カレイ(2012年12月)

寒鰤、寒鯔・寒鰈

 

寒鰤、寒鯔・寒鰈という言葉をよく耳にします。冬の旬の魚を並べたことわざで、何も冬に旨いのはこの三種に限ったものでもなく、粗方の魚は寒い時は身が締まり、春の産卵期をひかえて食欲が旺盛になり、脂肪がのって味がよくなります。この俗言、語呂合わせぐらいに考えてもよさそうですが、この寒鰤に関しては文句の付けようのない逸品です。特に富山湾の「能登ぶり」と呼ばれる寒鰤は、日本一と言っても過言ではありません。

鰤はワカシ・イナダ・ワラサ・ブリ(関東では)と成長するにしたがって名前の変わる出世魚の代表的な存在で、縁起のよい魚としても知られ、流通の段階でも値段が出世する魚でありました。昔、浜で獲れた鰤一本が、米一斗(約15kg)に変わったので「一斗ぶり」と言われたようです。遠くへ届くにつれて、二斗、三斗と上に「一俵(四斗)ぶり」まで出世したそうです。天井知らずの浜鰤の相場は、私の記憶では、新湊で一本38万円と覚えています。

「鰤起し」という言葉があります。冬の俳句の季語で、鰤が定置網に掛かる頃に鳴る雷は、寒冷前線が通過すると発生し「雷が鳴ると鰤が揚がる」と北陸の漁師も、相模の漁師にも言い習わしがあり、昔、箱根に雪が降ると必ず相模湾に鰤が大漁だったことを思い出します。この鰤を築地に運ぶのに鰤を入れる箱が間に合わず、身出しのまゝトラックに積まれてきてせり場に並べられた光景は、それは見事なものでした。

出世魚である鰤は縁起魚でもあります。木曽川を境にして北東部では鮭、南西部では鰤を正月魚・年取り魚をよんで新年を迎える肴として賞味していたようです。塩鰤の切身や、鮭の卵をお雑煮に入れる地方や家庭がある話を聞くと、何度か関西のお雑煮を食べ、殆どの正月を東京で迎えた私には、お雑煮の話を書く資格がありません。ちなみに私の家の雑煮は鰹節を昆布の出汁のお汁に、切餅とわずかばかりの小松菜だけです。

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タラ(2012年11月)

鱈列伝

 

木枯らしが吹き始め、立冬を過ぎるともう冬はそこ。今年はうちのかあちゃんの顔でアキがこない(秋がこないで)、すぐに冬が来そうな寒さです。冬の食卓に欠かせない魚、鱈の付く魚を並べてみました。

マダラ

一般にタラといえばマダラを指しますが、日本近海にはスケトウダラとコマイの三種しかいません。タラは冬が産卵期のためオスは精巣(白子)をメスは卵巣(タラコ)を持っていて、白子は助宗よりも真鱈の方が、タラコは助宗のもののほうが商品価値が高いです。タラ類と他の魚類と異なる特徴は、尻鰭が二つに分かれていることと、下顎にヒゲが一本あることです。旨い食べ方は、魚偏に雪と書くから勿論ちり鍋、昆布締めも。デンブ、お尻じゃありません。田麩と書きます。ちらし寿司にのっている桃色の甘いやつ、鱈で作ります。

スケトウダラ

1960年代に冷凍すり身が開発され、練製品の原料に欠かせない魚でもあり、親よりも卵のタラコに人気のある親孝行の魚です。すり身には“surimi”と書いて英語圏で通用します。夏場の助宗を筒切りにして煮付けて食べてみて、旨いから。

コマイ

冬、氷の下で産卵し、氷下魚と書いてコマイと読みます。30cm位の魚で干物で入荷します。とても硬い。

ブワダラ

マダラを三枚におろして甘塩にしたもので、何故か宮城県・塩竈から“塩鱈フィレ”の商標で入荷しています。ブワダラの名は身がブワブワしているからの説が有力です。

ヒゲダラ

アシロ目アシロ科の魚で本名ヨロイイタチウオ(鎧鼬魚)ちり鍋が旨い魚です。

チゴダラ

タラ目チゴダラ科の魚でドンコの名で入荷しています。眼がやゝ大きいことと体色を除いてエゾイソアイナメとよく似ています。同じドンコと呼ばれて入荷されます。

ギンダラ

タラとは無縁の魚でアイナメ類の近縁です。北海道南部以北・ベーリング海から南カリフォルニアにかけて分布しています。

棒ダラ

干鱈の一種です。マダラの内臓と背骨を取り除いて腹身と背身に分けて何日も天日で干し、寒ざらしにしたもので、海老芋と炊き合わせた「芋棒」は京都の名物料理です。

干鱈

マダラの頭を取って、開いて本乾しにしたものです。天日でここまで乾燥させるには、約三週間かかると言われています。夏場の惣菜としては昔は塩鮭と人気を二分していましたが、最近では食べたことのない人の方が多いようです。切身の干鱈を焼いてほぐします。ザルに入れて熱湯をかけて柔らかくします。これをダシと醤油と酒を濃い目に合わせたタップリのタレに漬け込みます。冷蔵庫で寝かせると更に味がしまります。干鱈はベッコウ色をした身の厚い物を選んでください。

タラコは子供だから除きました。まだタラの名の付く魚が有っタラ教えてください。

シラウオとシロウオ(2012年2月号)

シラウオとシロウオ
澄むと濁るは大違い、禿に毛はなし、刷毛に毛はあり。濁点の有る無しで、意味の違った言葉になります。

シラウオとシロウオは一字違いの魚ですが、名前と同様に、紛らわしい共通点が多く、体長が数cmであること、生きているときの体は透明ですが、死ぬと白くなり、産卵の後は死んでしまうアユと同じ年魚でもあります。さらにシラウオをシロウオ、シロウオをシラウオと逆に呼ぶ地方もあったり、カタクチイワシの子や、ノレソレ(マアナゴの幼魚、レプトケパレス)をシラスと呼んだりすれば、ちょっと見では判断がつきかねます。魚の見分け方を、さらには雌雄の判別法などを書こうと思い、この魚の旬でもある春の魚、シラウオとシロウオを取り上げました。
シラウオは漢字で白魚と響きます。地方名は前述の通り、シロウオとかイサザなど、体が透明で死後に白くなるので、この名が付けられたのでしょう。よく見るとシロウオに比べて頭はとがっていて、背鰭と尾鰭の間に、脂鰭があって、サケの仲間であることがわかります。分類上ではキュウリウオ目シラウオ科シラウオ属です。春告魚のニシンが運んでくるのは北海道の春ですが、シラウオも江戸に春を告げていました。「月も朧に白魚の 篝も霞む春の空 冷えて風もほろ酔いに 心持よく うかうかと浮かれ鳥の只一羽 塒へ帰る川端で 棹の雫か濡れ手で粟 思いがけなく手にいる百両」―歌舞伎「三人吉三巴白浪」に出てくる、お嬢吉三の台詞です。ぼんやり霞んだ肌寒い春の月夜で、大川端(隅田川)の川面を照らすシラウオ漁の篝火は、まさに江戸の春には欠かせない風物詩だったようです。江戸前のシラウオは昭和30年代に絶滅しましたが、現在、青森県の小川原湖と十三湖、茨城県の霞ケ浦、島根県の宍道湖、北海道の網走湖、秋田県の八郎潟が主な産地です。大川端の白魚は徳川家康の好物であったため、その献上箱を運ぶ時は、大名行列を横切ることさえ許されていたとか。白魚の頭をよく見ると、葵の紋に似た突起があり、それでますます大事にされたという話も伝えられています。
一方、シロウオは漢字で素魚と書き、「ハゼ」の仲間で、分類上はスズキ目ハゼ科です。全長10cm位までのシラウオより少し小型の6cm位の魚で、体は細長く、円筒形で頭は丸いのが特徴です。シロウオと呼ばれていますが、淡い飴色をしている、築地市場で「イサザ」と呼ばれている、ビニールの袋に入って売られている、あれがシロウオです。シロウオ漁は、春に産卵のために遡る群を下流で待ち受けて四手綱や簗などで漁獲します。九州・福岡市の室見川のシロウオ漁は特に有名で、江戸時代の藩主黒田侯が好きだったことから「殿様魚」といわれていたようです。シロウオを網ですくい、酢醤油や鶉の黄身を入れた二杯酢につけ、踊りまわるシロウオを手早く食べる「踊り食い」が珍しい食べ方のようです。また、シロウオを吸い物の椀だねにすると、産地の地名「筑紫」(つくし)の字に体が曲がるといわれていて、雄はつの字に、雌は卵で腹が大きいためにくとしの字に曲がるといわれています。
曙やしら魚白きこと一寸 芭蕉
ふるゐよせて白魚崩れんばかりなり 漱石

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