Category: 秋の魚の話をしましょう (page 2 of 3)

サンマ③(2011年9月号)

サンマ③

 

8月半ばのこと、市場の中で7人ばかりの会合での話です。「秋刀魚食べたかい?」「ん、刺身で2回」「私は3回かな」今年は旨そうな秋刀魚の入荷が遅かったせいか、いつもの年に比べて食べた回数が少ないような気もします。腸の話になると、食べるのは3人になりました。「苦いというか、甘いというか、大根おろしとのコラボレーション(外国語嫌いの私が、こんな所で使っていいものか)がたまらないネ」と鼻の穴を広げていうと、腸を食べない一人が「ウロコが入っているから食べない」とも「苦いから」とも、食べ物の好き嫌いは個人差があって強制はできませんが、ウロコが腸に入った秋刀魚に当たった人には秋刀魚を嫌いになる理由になるかも知れません。ボーケ(棒受網)で獲った秋刀魚は、網の中でもまれて、ウロコが落ち、そのウロコを呑み込んだ魚で、その魚を当てた人は宝くじを買ってください。きっと当たるかも。私はここ10年位、ウロコを食べた秋刀魚に当ったことがないのです。こんな事で秋刀魚を嫌いにならないで下さい。私の口から云うまでもなく脂がのった秋刀魚は按摩(差別用語かな)泣かせといわれるほど栄養価が高く、20代の女性の86%が悪性貧血といわれていますから、血合に含まれるビタミンB12は貧血にはもってこいですし、トリ目を予防するビタミンAは牛肉ロースの12倍というデータもあります。

この秋刀魚を「兼題」に定例の魚河岸俳句会が8月25日銀鱗会で開催されました。決められた題で俳句を作ることを「題詠」といい、あらかじめ出しておく題を「兼題」といいます。大体「季語」がそれにあたります。毎月、五句の投句の内、二句を兼題の魚にあて、全員で選句した上位二句が魚河岸俳壇に載ります。選ばれた句を中心に意見を述べ合う「合評」をして会を終えます。選から漏れた句でもそれは良い句があって、魚河岸で働く人の心意気が伝わってきます。

今回、魚食普及の一助にもなると思い紹介します。

細くとも脂なくとも 秋刀魚好き

勇気出しサンマ三匹 魚河岸で買う

さんま食べ思いは常に 三陸へ

食卓の主役に抜擢 焼きサンマ

腸苦し大根おろしも 又旨し

ふっくらと手に余り有る 秋刀魚かな

じわじわと音する秋刀魚 網の跡

≪最後に歳時記より≫

秋刀魚焼く匂ひの底へ 日は落ちぬ 加藤楸邨

さんまよりカツレツが好き 子が育つ 尾村馬人

火だるまの秋刀魚を妻は 食はせけり 秋元不死男

 

魚河岸俳句会だからといって魚の句を強制するわけではありませんが、自然と増えてくることは否めません。馬人先生存命時の旧会員の方も、再入会して、我々若い会員を叱咤して下さい。勿論初心者の方も一緒に勉強しましょう。

スルメイカ①(2010年9月号)

スルメイカ①

 

暑い日が続いています。暑さの新記録だそうで、連続熱帯夜とか、連続猛暑日とか、熱中症患者数とか。新記録ですから、私達、若い者は勿論、住民票のない?お年寄りでも、皆、初めての経験です。

こんな“川柳”はどうですか。暑=日+者

「暑いとは、日に者ぐるい(死に物狂い)の暑さかな」

異常に暑い、食欲不振のこの夏、スルメイカの「イカそうめん」を食べて元気をつけましょう。

まず、皮をむいたスルメイカを縦半分に切り、包丁を寝かせて一枚の紙を剥がす様に二枚に切ります。これを二枚重ねて糸造りにし、氷を入れたどんぶりに盛り、薬味はわさびの他・針生姜・茗荷など、醤油以外にも、そばつゆも結構いけます。

と云うわけで今月はスルメイカの話です。

「県の魚」としてイカをあげている県があります。北海道でも、青森県でもありません。石川県です。

スルメイカは、春先から日本近海の水温の上昇に伴って北上するので、漁期は地域によって違いますが、一年中、日本のどこかで獲れます。

東京は、幸いにして広い意味での地産地消に入ると思いますが、千葉県勝浦や、静岡県・下田の鮮度抜群のスルメイカが毎日の様に入荷しています。しかも今年は例年になく入荷量も順調で割りに安値の様で、お客様の消費が以前にもどってくれればと願うばかりです。昔は伊東・網代・稲取・下田と相模湾のイカが、十貫匁(37kg)の木樽で毎日何百と入荷したものです。その日のうちに捌けて、魚屋さんでもその日のうちに売れ切ったものでした。あの購買力はどこへ行ったのでしょうか。年寄りはイヤだね、愚痴ばかりて…。

さて、私がイカの説明をする時、タコをお供に話を進める羽目になってくるのは両方とも胴体に足が付いているからでしょうね。一般に外套膜に包まれた胴と頭、腕がひと続きになっているからで、分類上でも両者とも軟体動物門頭足類に入っています。図鑑や専門書の写真やイラストは足が上について、逆立ちしているように見えるのも頭足類の名前からうかがえます。イカの足は何本と聞くと「イカは10本、タコ8本」という答えが100%返ってきます。イカの足(分類学的には腕と呼ばれています。)この腕がタコと同じく8本しかないイカもある様です。

イカは10本の腕のうち、触腕とよばれる餌を捕えるための専用の腕を二本もっています。他の八本より長目の腕・触腕を英語でハローワーク(職安)とよびます。(ジョークです。)タコとイカの違いはイカには鰭があって、ミミと呼んでいますが、エンペラという説もあります。ナポレオンの帽子にイカのミミが似ていたのでナポレオン=エンペラーで、「エンペラ」これも眉唾かな。

この続きは次回パート2へ!

キンメダイ(2009年9月号)

金目鯛の巻

金目鯛を書かなければならない羽目になりました。

九月号は、「県の魚」の話を書こうと組合三階に相談に行ったところ、組合広報の渡辺若菜さんから「九月号の表紙です。目が綺麗でしょう」と金目鯛の写真を見せられました。いつかは書かねばならなかった魚ですが、11月ごろと思っていた矢先だったので、「勝浦(千葉県)ではまだ禁漁中じゃないの?この金目・目が大きいね」と因縁をつけた心算が、余りに写真が可愛かったので、金目の原稿を書くことになった次第です。

私には、「金目にたいして”拘り”があるのです。」わがままになるかもしれません。私の拘りの前に金目の概略をお話しします。

市場では「金目鯛」を「金目」と略して呼んでいます。

水深100〜300mの大陸棚の駆け上がりの底近く住んでいる魚で、北海道の南部から南に分布しています。関東では常磐沖、外房沖、相模湾、駿河湾などが主な漁場で、1本釣り、延縄、底曳き網などで獲られます。私も若い頃、小田原から乗り合いで金目釣に出かけ、仕掛けについた鉤の数だけ一荷で釣れて、宛ら、鯉幟の様だった記憶があります。300g位の小金目でしたが10匹も、水深200mから手巻きのリールであげると、楽しみが苦しみに変わった、思い出の釣行でした。

以前、鰹の話で、店で初荷から大晦日までいちにちも欠かさず鰹を並べていたことを。 今金目を1年・1日も欠かさず店にある事を思い出します。それ程人気が出てきた魚です。

金目の料理法は和・洋・中どんな食べ方をしても素材が良ければ美味しいはずです。何度もいう様ですが「うまい」「まずい」には個人差があります。私の「舌」は標準と判断して下さい。冒頭の広報の渡辺さんの容貌で旨い、まずいの見分け方ですが「目の小さい魚旨い魚です。」これも私の”拘り”の一つです。金目の種類は同じ?ですが市場では「地の金目鯛」と「沖の金目鯛」と言う分け方をしていて、値段やうまみの地金目が上とされていますが、沖の金目もじきや取れ場所によってはうまい魚もあって一概にこの分け方が良しとは言えません。しかし、同じ魚を比べてみて、目の小さい魚を選ぶことが正しい方法です。鯵や鰯などの小さい魚から、鰹でも、大きな鮪でと然りです。

以前からテレビ、ラジオ他色々な教室てまと常々、「魚は一匹で買って家で料理をして下さい」と教えてきました。魚市場セミナーでは、32名の生徒さんに鰹を一尾、1キロを越す真鯛を一尾、秋鮭を一尾づつ料理して頂いたこともありました。魚を一尾料理することで魚の美味しいところを捨てることなく、食べられるように学んでいただきました。金目の話に戻ります。金目の美味しい所、目の玉です。カルシウムの塊である眼球の外側は、コリコリとして美味。一尾で2ヶしかないから喧嘩しないように。中心に透明な球がありますが、これは食べられません。胸鰭の付け根の筋肉は、赤味がかった茶褐色で眼球と一緒に「あら煮」で食べて下さい。煮こごりも美味しいです。

アカニシ②(2008年10月号)

アカニシ②

赤螺の話をした所、早速、中央魚類特殊二課の松井誠君が、9月末の日曜日に、お台場の先で獲ってきたと写真の赤螺を持ってきていただきました。有難うございました。それを見て当店の浦安在住の店員が「浦安には持つ間大きいのがあんのよ」と言ってくれました。赤螺は江戸前の貝でもあったのです。

前号で私の父が”赤螺!”とお客さんに怒鳴っていたとかきましたが、今の市場で”しみったれ!”とか”赤螺!”とかお客様にいおうものなら、あくる日から店を開けられなくなりそうです。

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アカニシ①(2008年9月号)

アカニシ①

皆さん、秋刀魚を食べていただけたでしょうか。私は8月末日をもって六回食べました。いずれも一回で一匹。一回は刺身で、一回は筒切りにして煮物で、あとは塩焼きで。やはり秋刀魚は塩焼きで、焼きたてを、たっぷりの大根おろしで。秋刀魚はこれが一番です。この号が出る9月の下旬から10月にかけて、秋刀魚の脂肪含有量が20%以上になります。この時期の魚が“旬の秋刀魚”で、焼いた時の香ばしい匂いはたまりません。

煮物について一言

3cmの筒切りにして内臓を出し、酢水で下ゆでして、ゆでこぼします。煮汁を煮立てて酢味がとぶまでしっかりと煮ます(私の家では圧力釜を使います)。仕上げにけずりがつおを煎って粉にしてまぶします。旨いですよ。以前から、何度も云うように、旨い、不味いや、好き、嫌いは個人差があって、敢えて押し付ける事はしませんが、大方の賛同を得ていますので参考までに作ってみて下さい。

今回から何回にわけて、築地の今・昔を見比べて、年寄の戯言の様な物を書こうと思います。戯言とは、とりとめのない事と解釈してください。私が築地に入って一番早く教えられた事が三つありました。

一つ 挨拶をする事

二つ 大きな声を出す事

三つ お客様の顔をおぼえる事

私が学校を出て河岸に入った当時は、大勢のお客さん(主に魚屋さん)が市場に見えて、それは賑やかでした。魚屋さんが連れてくる小僧さんにも挨拶をしました。周りのお店の、私より年下の店員さんにも声を掛けました。皆、市場では先輩ですから。「オッス」と返事が返ってきて、うれしかった思い出があります。軒先を借りる事でも「ちょっと借ります」「すみません」の一言で、その場が和らぐはずです。年下の人から年上の人に向って挨拶をするのが常識とされていることも忘れずに。軽く会釈するだけでも市場はもっと明るくなると思います。

二つ目の大きな声を出す事。これには参りました。「大きな声を出せ!」と怒鳴られてもなかなか声がでないんです。この話は長くなりますから次号への続きとさせていただきます。

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