Category: 秋の魚の話をしましょう (page 1 of 3)

シタビラメ(2016年10月号)

舌平目

フランス料理で魚を食べようとすると、シタビラメのムニエルをまず思い浮かべるでしょう。今回はシタビラメの生態や特徴など、それに私の家での料理やレシピ等を紹介します。

シタビラメの生態

シタビラメは分類上は、カレイ目ウシノシタ科、ササウシノシタ科の魚です。ウシノシタ科魚類は世界に4属167種、日本に4属17種が分布しています。

この仲間は目が体の左側にあり、表(有眼側)にして腹を下にすると、左側に頭がきます。また、この類は体の先端に口がありません。先端の吻が腹側に回り込んで、そこに口があります。口元に扇状のひげがあり、表面の黒いのが黒舌平目、ひげがなく、茶色っぽいのが赤舌平目です。

いずれも尾がはっきりせず、一体となっていて、背鰭、尾鰭、尻鰭が繋がっています。この形が動物の舌の様に見えるから舌平目と言います。この形ゆえに、靴底・ソールなどと呼ばれています。築地では、というか、私は「敷側」「下敷」と舌平目を呼んでいました。

砂泥底の浅い海に棲み、普通底引き網・定置網で漁獲されます。淡泊な味で、夏から秋が旬とされますが、1年を通してまず美味しい魚です。味は赤舌平目が上といいますが、私には〚赤と黒〛とも味はスタンダードだと思っています。

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クロダイ・イシダイ(2016年9月号)

クロダイ・イシダイ

魚の話を書く段になって、秋口に旨い魚は何かないかと、咄嗟に思い付いたのがクロダイでした。それに、イシダイもあったなと。思い返せば、クロダイも、イシダイも書いた覚えがなかったので、早速紙面に載ってもらいます。

そうい言えば、両タイとも俳句歳時記上では夏の季語で、昔から親しまれている魚です。話は序に、秋口という言葉も秋の季語で、丁度今頃、秋のはじめを言います。

クロダイ

タイという名の付く魚は日本の周辺だけでも300種類以上存在すると言われています。しかし、分類上タイ科というグループにまとめられるのは、マダイ属、チダイ属などの仲間に限られます。タイ科の魚は世界に約100種いますが、そのうち日本近海には13種類が生息するに過ぎません。今回誌上に載るクロダイはその内の1種で、本物のタイ科の魚です。

体形はマダイに似た、いわゆるタイ型で、体色は銀灰色。クロダイの名はそこから付けられました。幼魚期には銀黒色の明瞭な横縞が6~7本ありますが、成長とともに薄くなっていきます。

クロダイは性転換する魚で、幼魚期から体調20cmの若魚期(4年魚)にかけて雌雄同体として過ごすという特徴があります。5年以降になると、多くは雌に性分化します。

分布は、琉球列島を除いた北海道以南、朝鮮半島南部や台湾、中国北中部沿岸域に限られます。

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ボラ(2013年10月)

 

鰡飛んでみなとみらいを廻り行く   伊栄井

 

八月末の休日前日、友人と桜木町で待ち合わせて港の見える丘公園から山下公園・氷川丸の場所まで1万4000歩の散歩をしました。高校のクラス会を久しぶりに横浜でということの下見で、氷川丸の見えるところから、水上バスで横浜駅まで遊覧した際の吟行句です。岸を離れて間もなく、目の前を魚が飛ぶのです。

大きさで鯔とすぐに判るのですが、飛魚かと思わせる位、飛ぶのもいました。日が傾きかけて赤らんだ海面に、鯔が飛ぶ光景を、10月23日に予定しているクラス会で皆に見せられるかな?

鯔は俳句歳時記では秋の季語です。「寒鰤・寒鯔・寒鰈」と呼ぶように旬は冬で、出世魚としても知られた魚です。

関東地方のごく一般的な呼名で、春に暖かな海で孵化した稚魚が塩分の少ない河口や内湾に達した頃、3cm以下の幼魚をハク、川を上り始めます。大きくなるに従って、オボコ、スバシリ、イナッコなど呼ばれるようになり、秋に20cmに成長するとイナと名を変えて川を下り始めます。汽水域に慣れて内湾の深場に入る頃ボラの名が付きます。

ここでの生活が2、3年続くと外洋に出て産卵し、陸地近くには戻らなくなります。4歳魚にもなると50cmの魚になり「とどのつまり」とトドになります。この説明でもおわかりの通り、都市近郊の内湾で獲れた鯔は泥や油のにおいが強い場合があり、そのイメージから東京の市場にあまり入荷しません。それにひきかえ外洋の鯔は旨いですよ。新鮮なものは刺身で、生姜醤油や辛子酢味噌がよく合います。寒鯔を鯛の代わりに寿司種に使うと言われるくらい美味です。

この鯔、日本では北海道以南に棲むスズキ目ボラ科の魚で、特に関東から西に多く、食域の広さも関東とは比べようのない位の話を耳にします。その外、古い資料によりますと神話に登場する程、昔から食べられていた魚であるとか、江戸の産土神として神田明神へ祀った話等は後日に回して「カラスミ」と「鯔のヘソ」の話をしてこの稿を終えることとします。

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サケ(2011年11月号)

鮭の巻

11月11日は何の日?

十一月十一日は鮭の日です。

知らなかった?知らなかったじゃすまないよ。

魚河岸で働いている人間なら覚えておいて下さい。

そして子供たちに魚の知識も含めて伝えていくのが私たちの仕事ですから。

魚偏に土二つを書いて鮭。土を十一と見て十一月十一日です。

秋になると鮭の産卵シーンがテレビで放映されます。

餌も食べず、産卵のために懸命に川を遡上する鮭を見る時、自然の営みとはいえ痛ましい姿にジーンとくるのは私だけでしょうか。

その感動をすぐに忘れて、翌日になると、鮮魚の鮭、生の筋子、輸入物のサーモン等を売っているのは生業のせいでしょうか。

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サバ(2011年10月号)

サバの巻

10月は鯖です。いや秋鯖です。鯖の季語は夏ですが、秋鯖の季語は勿論、秋なのです。
マサバとゴマサバがあって、世界中の温帯・亜熱帯のほとんどの海域に生息しています。マサバは体がやや扁平な紡錘形で背側に「さば紋」と呼ばれる黒い波状の模様があり、平サバともいいます。魚を輪切りにしたときの形が楕円形で、この名が付きました。秋に脂がのって旬を迎えます。
一方、ゴマサバはマサバより体が小さく、側面と腹面にゴマを散らしたような斑点があり、体の断面が円に近いので「丸サバ」とも呼ばれ、旬は夏です。夏場にマサバより一時旨くなる時があります。その他に北部北大西洋に分布している「タイセイヨウサバ」が、ノルウエーなどから冷凍で輸入されています。1980年代に日本近海のサバが不漁の折、その代用として輸入されたものです。体はマサバによく似ていますが、背部の模様が「く」の字の黒い縞が明瞭なのと、輸入国名の表示で見分けられます。
小学生とそのお母さん、若い女性などを対象に調査したところ、一番嫌いな魚料理は“サバの味噌煮”という答えが返ってきました。そころが、お母さんたちの得意な料理のトップもサバの味噌煮なのです。サバ節が古くからおそば屋さんやうどん屋さんで汁用のだしとして使われている事もご存知のことと思います。このように日本人の食生活に溶け込んでいる鯖は100万トンを超えた豊漁の1970年代を最後に減少し始め、前述の1980年代の不漁期に、
一本が八千円也の秋の鯖
当時、私の作った拙い俳句です。
私の店で売ったわけではありませんが、築地の市場での相場でした。一匹の鯖の値段ですよ。2キロも3キロもあるわけでなし、せいぜいあって1.5kgでしょう。秋鯖です。値打ちがあったのでしょう。生のマサバを年間平均脂質含有量は17%ですが、晩秋には軽く20%を超えます。旨いはずです。
鯖を紹介する時、必ず話題になるのが、「秋サバ嫁に食わすな」という諺です。マサバは4月から6月の産卵期を過ぎると、夏には活発に餌を食い、十分栄養をとって脂肪も乗り最高の旬を迎えます。姑が独りじめしたくなるほどの旨さになるのです。何とも意地悪な嫁いびりのようですが、別の解釈もあって、秋サバには卵がない、つまり子種がないので、嫁が食べると子宝に恵まれないのではないかという子孫繁栄を望む親心ともとれます。
サバを含む青背の魚には成人病を防ぐ数々の物質が含まれています。
動脈硬化を防ぎ、心筋梗塞にならないようにし、血流中の中性脂肪を減少させたりすることが知られています。最後に肌を綺麗にしたい方は、サバの尾に近い皮と身の間に、ビタミンB2が集中していますから、血合い肉も構わずに食べて、いつまでも若さを保ってほしいものです。
秋鯖や若狭生れの京育ち
妙女

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