伊佐木の巻

五月は伊佐木の話です。

この魚ほど話のネタの多い魚もありません。暖海の水の澄んだ岩礁帯や、比較的浅い海に棲む魚で、釣りの対象として大変人気のある魚です。関東から南に多い魚で、特に九州で多く獲れ、姿が美しい上に、惣菜として焼き魚、刺身に人気のある”魚らしい魚”です。よくうまい魚のことを「寒鰤、寒鯔、寒鰈」とか、「麦藁ダコに祭りハモ」などといって、昔から伝わるたとえに「梅雨鶏魚」と言われるほど、六月、七月の伊佐木は旨いんです。夏場になると伊豆諸島から形の大きな伊佐木が入ってきて、これも旨いんです。伊佐木の他に漢字で鶏魚が当てられることがありますが、これは背ビレのところから鶏のトサカに似ているので、この字が当てられたと言われています。伊佐木には地方名がおおく、イサギ、シャミセン、ウドンブシ、ハンサコ、ツンテン、いったあぐいで、和歌山県ではカジヤゴロシと呼ぶところがあるそうです。その昔、伊佐木の骨が喉に刺さって取れず苦しんで死んだ鍛冶屋がいたのでのこの名がついたと言われています。同じ様に博多では「伊佐木は北向きで食べろ」というがら、そのわけは、「伊佐木のヒレと骨は硬くて鋭く、喉に刺さって命取りとなって北まくらに寝かされる」からだとらという話も聞きます。

伊佐木の旬は晩春から初秋にかけてで、晩秋から冬には別の魚になったかと思えるくらい、味が落ちるといわれています。しかし、高知・愛媛はじめ大分・長崎など養殖が盛んになって、鯛や平目などと同じ様に旬が変わってくる様な気がしてなりません。

旬の伊佐木は刺身が一番です。皮を引くと鮮やかな紅色の紋様が現れます。この色の美しさを大切に盛り付けて下さい。ツマを添えて。

刺身になくてはならなきのがツマです。大根や胡瓜の細切りや海藻が刺身の色を鮮やかに際だたせます。

伊佐木の身の白さと、皮の目の紅らつまの緑が映えるのはこの時てます。

ですが、ツマは色彩の効果ばかりではありません。魚にはタンパク質や脂質は豊富ですが、ビタミンやミネラルは少なく、食物繊維はありません。ツマはこれらの不足を補い、さらに魚の生臭みを消し、口直しをすると同時に季節感を表現し、風味を増す役割もあります。主人役の刺身を盛り立てるのが妻の内助の功です。今月、伊佐木の脇役にはオゴノリが似合います。

おごのり(海髪)の巻

おごのりは日本全国の沿岸、特に関東から中部にかけて分布する海藻で、内湾に多く生育しています。東京ではウゴと呼んでいますが、オゴが本名です。生では黒赤色や暗褐色ですが、石灰か灰汁でアルカリ処理し茹でると緑色になります。緑というより、”木賊色”です。海藻は沃度やミネラル、ビタミン類がおおく、しかもカロリーが少なく、歯切れ、香りが爽やかで、”良い事ばかり”の健康食品として女性を中心にもてはやされている理由にもなっています。これからは”ツマ”もいっぱいたべちゃおー‼︎