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寒ブリ・寒ボラ・寒カレイ(2012年12月)

寒鰤、寒鯔・寒鰈

 

寒鰤、寒鯔・寒鰈という言葉をよく耳にします。冬の旬の魚を並べたことわざで、何も冬に旨いのはこの三種に限ったものでもなく、粗方の魚は寒い時は身が締まり、春の産卵期をひかえて食欲が旺盛になり、脂肪がのって味がよくなります。この俗言、語呂合わせぐらいに考えてもよさそうですが、この寒鰤に関しては文句の付けようのない逸品です。特に富山湾の「能登ぶり」と呼ばれる寒鰤は、日本一と言っても過言ではありません。

鰤はワカシ・イナダ・ワラサ・ブリ(関東では)と成長するにしたがって名前の変わる出世魚の代表的な存在で、縁起のよい魚としても知られ、流通の段階でも値段が出世する魚でありました。昔、浜で獲れた鰤一本が、米一斗(約15kg)に変わったので「一斗ぶり」と言われたようです。遠くへ届くにつれて、二斗、三斗と上に「一俵(四斗)ぶり」まで出世したそうです。天井知らずの浜鰤の相場は、私の記憶では、新湊で一本38万円と覚えています。

「鰤起し」という言葉があります。冬の俳句の季語で、鰤が定置網に掛かる頃に鳴る雷は、寒冷前線が通過すると発生し「雷が鳴ると鰤が揚がる」と北陸の漁師も、相模の漁師にも言い習わしがあり、昔、箱根に雪が降ると必ず相模湾に鰤が大漁だったことを思い出します。この鰤を築地に運ぶのに鰤を入れる箱が間に合わず、身出しのまゝトラックに積まれてきてせり場に並べられた光景は、それは見事なものでした。

出世魚である鰤は縁起魚でもあります。木曽川を境にして北東部では鮭、南西部では鰤を正月魚・年取り魚をよんで新年を迎える肴として賞味していたようです。塩鰤の切身や、鮭の卵をお雑煮に入れる地方や家庭がある話を聞くと、何度か関西のお雑煮を食べ、殆どの正月を東京で迎えた私には、お雑煮の話を書く資格がありません。ちなみに私の家の雑煮は鰹節を昆布の出汁のお汁に、切餅とわずかばかりの小松菜だけです。

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カレイ(2012年7月号)

カレイの巻

暑さで食欲の落ちる夏には、さっぱりとした白身魚が好まれる様で、魚の方から召し上がって下さいと市場においしい魚たちが入荷しています。鱸・鯒・鶏魚・石鯛・鱧・真子鰈・魳・鱚・穴子・みんな夏に旨い白身魚です。今月は鰈の違いとか、真子鰈と真鰈の違い等が気になって、これを機に魚の見分け方を話していきます。

まず、真子鰈の紹介です。

日本周辺にはおよそ40種のカレイ種が分布していて、そのすべてが食用になります。一般にカレイの旬は秋から冬ですが、この真子鰈は夏が旬です。北海道南部から九州までの内湾の砂泥底に棲んでいて、大きいものは35cm位になります。

東京湾の真子鰈も有名ですが、大分県日出の真子鰈は名物です。シロシタガレイ(城下鰈)と名が付けられていますが、特別な種ではなく、真子鰈そのものです。日出の湾内には湧水があって、そこに棲む真子鰈は海水と湧水の混じった環境に適応し、しかも良い餌に恵まれ、すばらしい味のシロシタガレイになったのです。残念ではありますが、この年になるまで、試食に至りませんでした。このカレイも夏場が旬です。

湾内(東京湾)の真子鰈も今が旬で、美味しいです。刺身や寿司種・煮付・唐揚・蒸し物等あらゆるカレイ料理に向きます。目板鰈も同じ場所で上っていますが、共に肉も厚く、同じような料理方法で召し上がれます。今日は真子鰈の煮汁を食べて下さい。食べさせて下さい。食べ終った後の煮付けに、お湯を足して細かな身と飲んだあの旨さは忘れられません。唐揚もいいです。鰈を五枚におろして、片栗粉を付けて中温の油で揚げます。時間はおよそ骨で八分、身で1分半位。天つゆに大根おろしとおろし生姜を添えて、夏の暑さを吹き飛ばします。

本題に入ります。まず平目と鰈の違いです。以前は“大きいのが平目で、小さいのが鰈”とか“高いのが平目で、安いのが鰈”なんて無責任極まりない話を聞いたことがありましたが、“左ヒラメ、右カレイ”が通り相場のようです。鰓の切れ込みがある方を下にしたとき、目が左側にあるのが平目、右側にあるのが鰈という意味です。私は口を見て、と教えてきました。平目は魚食住のため、口が大きく、怖い顔をしています。鰈はゴカイ類などを食べるので口は小さく、可愛い口をしています。平目に“大口”、鰈には“口細”の別名もある位です。いずれも例外はあるようですからご注意を。相違点を書きましたが、共通点もありますよ。まず、砂泥底に生息しているため無眼側は普通純白なこと、それに“夏座敷とカレイは縁側がよい”という諺があります。暑い夏の座敷では床の間を背負うより風通しのいい縁側がよく、カレイも縁側がよいという意味です。この縁側は背鰭と臀鰭を動かす筋肉のことで、この言葉はカレイ目魚類以外では使いません。

真鰈との違いです。“カナ”で書いても、真鰈のほうが一字足りません。魚を扱っているものなら兎に角、一般の方には間違いやすい名付け方です。見た目では、形・大きさに差は然程ありませんが、無眼側(白い方)の背腹両線が黄色なのが真鰈で、純白なのが真子鰈です。味は私の口から申すまでもなく、カレイの双璧で、夏の真子鰈に対して、秋から冬に獲れる真鰈は味がよく、煮付・唐揚は絶品です。