「安心・安全」

 

各々方、ご油断召されるな。夏の峠は越したとは云え、まだ八月、来月九月は一年でも、三指に入る食中毒の多い月です。私達が扱う魚の生食が関係する食中毒は、平成18年を境に激減した腸炎ビブリオ食中毒です。完全に無くなる菌ではないので、油断すれば大量に発生する可能性もあるわけです。東京都の衛生検査所の先生方の毎日の市場内巡視・監視により、今日では安全といえる状況です。本当にありがとうございます。東卸の広報文化委員会でも永年にわたるラジオ・テレビや魚市場セミナー・魚教室等を通して啓蒙しているところです。腸炎ビブリオ中毒についても一度勉強してみましょう。病原性の好塩菌と呼ばれるこの菌は、ごく自然に海水中に生息していて、ごく自然に沿岸の魚介類に取り込まれます。アジ・イカ・タコのような沿岸の魚類の生食が原因であることが多いようです。この菌は、名の通り塩水は好きですが、真水を嫌う性質を持っていますから、漁獲された魚を真水で洗い、付着した菌を洗い流せば食中毒の発生は防げます。又、熱に弱い性質もあります。冷凍しても死にません。冬には好塩菌は殆ど生息せず、夏であっても鮮魚を10℃以下に保存させれば安全です。しかし、17℃以上になってしまうと、温度が1℃上昇する毎に倍々に増殖してしまいます。もし好塩菌が繁殖したとしても60℃で10分加熱することで死滅させることができます。

 

ここから余談になります。

昭和30年代の近海物セリ場は、毎日、活きの良い魚が入った木樽が山の様に積まれ、足の踏み場もない位で、それは壮観でした。木樽も40kg以上入る逆さ樽、37kg10貫目入りの他、30kg(8貫目入)の水戸樽。その樽が互い違いに二段三段と積み込まれて岸壁の方まで広がっていました。小鯵の入った樽から一匹つまんで、頭、内臓、背ビレ、腹ビレを取り、皮をむけばきれいな鯵の姿造で、猫がくわえるようにパクリと。ヒイカという小さなイカが常磐から入ってきました。皮をむいてほうばります。ホヤに小刀を入れ、中身に齧付きます。鮪の尾の切り口を穿って味見をしている人もいました。今、衛生の先生が見られればきっと注意されるでしょう。でも誰一人として、おなかをこわしたり病気になった人はいません。生で食べて良いものか、わるいものか、判断する知識と身体を親から授かったと私は思っています。牛・豚を生食では出荷してはいけないのに、生食で食べて中毒を起こしたり死者まで出すとは。うちの子はグルメだからと身体のに抵抗力のない子供にユッケを食べさせる親が悪いと、極端ですが私は思います。

時恰も、新潟、福島の水害です。信濃川水域で堤防が決壊して避難指示や勧告が39万人に出されました。水害に遭われた方にはお見舞い申し上げます。しかし、勧告を受けた人の何割の人が「安心・安全」を求めて避難したのでしょうか。

安心・安全が果たして、言葉通り信頼出来る安心・安全なのか、食中毒の話も含めて考え直さなければならないと思います。