鰡飛んでみなとみらいを廻り行く   伊栄井

 

八月末の休日前日、友人と桜木町で待ち合わせて港の見える丘公園から山下公園・氷川丸の場所まで1万4000歩の散歩をしました。高校のクラス会を久しぶりに横浜でということの下見で、氷川丸の見えるところから、水上バスで横浜駅まで遊覧した際の吟行句です。岸を離れて間もなく、目の前を魚が飛ぶのです。

大きさで鯔とすぐに判るのですが、飛魚かと思わせる位、飛ぶのもいました。日が傾きかけて赤らんだ海面に、鯔が飛ぶ光景を、10月23日に予定しているクラス会で皆に見せられるかな?

鯔は俳句歳時記では秋の季語です。「寒鰤・寒鯔・寒鰈」と呼ぶように旬は冬で、出世魚としても知られた魚です。

関東地方のごく一般的な呼名で、春に暖かな海で孵化した稚魚が塩分の少ない河口や内湾に達した頃、3cm以下の幼魚をハク、川を上り始めます。大きくなるに従って、オボコ、スバシリ、イナッコなど呼ばれるようになり、秋に20cmに成長するとイナと名を変えて川を下り始めます。汽水域に慣れて内湾の深場に入る頃ボラの名が付きます。

ここでの生活が2、3年続くと外洋に出て産卵し、陸地近くには戻らなくなります。4歳魚にもなると50cmの魚になり「とどのつまり」とトドになります。この説明でもおわかりの通り、都市近郊の内湾で獲れた鯔は泥や油のにおいが強い場合があり、そのイメージから東京の市場にあまり入荷しません。それにひきかえ外洋の鯔は旨いですよ。新鮮なものは刺身で、生姜醤油や辛子酢味噌がよく合います。寒鯔を鯛の代わりに寿司種に使うと言われるくらい美味です。

この鯔、日本では北海道以南に棲むスズキ目ボラ科の魚で、特に関東から西に多く、食域の広さも関東とは比べようのない位の話を耳にします。その外、古い資料によりますと神話に登場する程、昔から食べられていた魚であるとか、江戸の産土神として神田明神へ祀った話等は後日に回して「カラスミ」と「鯔のヘソ」の話をしてこの稿を終えることとします。

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