Category: 春の魚の話をしましょう (page 4 of 5)

ニシン(2010年3月号)

魚の語源~にしん編~

魚の語源を知りたくて筆をとりました。事の起こりは「虎魚」でしたが、あまりにも「旬」が違うので(市場の?常識では、関東では夏、関西では冬が旬と言われている)、同じように語源を知りたくなる魚を探すことになり、今回のお題「鰊」となったわけです。

以前に流行った地下鉄の漫才ではありませんが、考えてしまうと寝ていられなくて沢山の書物を読み漁りました。先人達の研究者熱心さが読み取れ、自分の知識の薄さと、勉強不足を嘆いている今日この頃です。

最近になって学者先生によって命名された魚名を除いて、古くから食べられていた魚には、「とする説がある」とか「であろう」とか今一つはっきりしたものがつかめず、その語意について決定的な解明をするには至難のわざといえます。

「親釈 魚名考」によるとニシンの語源については、大言海(国語の辞書)に「ニシン」とは「二身」の意。身を二つに割ることの意。土人(その土地に生まれ、代々住んでいる人)にとりては魚にあらず飯なり、故に魚非ずという国字「鯡」を作る。「カド」(後に説明)の内臓を除き二つに割きて乾したるものを「ニシン」と呼ぶ。腹部の方は肥料となし、背肉の方を「ミガキ」と称して食用とす。多くは貧人の食となる。「鰊」の字は「東海の魚」の合字なるべし…とニシンの語源について説明してあります。「蝦夷拾遺集」には「卵がおおく、妊娠魚の意になり」とか、「松前方言考」には「恩恵を受けること両親に等しきため、二身という」等の説があるが、確説はない。別に「鮮魚を『カド』といい、乾魚を『ニシン』という」との説もあるが、それとは正反対の名で呼ぶ所もあります。

昭和以前は、産地近くを除いて乾物だけが八百屋か乾物屋の隅に、枯枝でも束ねたように放っていましたから、まさしく「鯡」は「魚に非ざる魚」でした。「本朝食鑑」には「カドは賎民と猫の食なり」とあります。

そういえば、昔、父の友人(勿論、仲買の旦那)が小僧時代、みせの賄で「干の数の子」と「塩鮭」を買いに行かされた事が1番嫌なことだったと言っていたのを思い出しました。

地方名の「カド」は、明治時代でも、関東や関西地方でさえ、サンマ、サッパ、その他の大衆魚を「カツ、カド」と呼ぶところは少なかったのです。「カド、カツ」とは「糧、糅、食料や飯の足しにするもの」の意で、ニシンの卵の乾物(カヅノコ)の呼名は「カツの子」が語源です。

さんさ時雨の歌詞にも

「酒の肴に数の子よかろ、親は鰊(ニ親魚)で子はあまた」と唄われ、両親の健在の家では正月とお盆には必ず鰊と数の子を食べて一族の繁栄を祈る風習がありました。

大言海によると、「数の子」は室町時代にはコズコズと呼んでいたけれど語呂が「不来不来」と同音で縁起が悪いので「来来」と呼ぶようになったということです。そして数の子という名前は江戸時代になってからの呼名です。

 

《参考文献》

『新釈 魚名考』 栄川省造 著

『おもしろいサカナの雑学辞典』 篠崎晃雄

イサキ(2009年5月号)

伊佐木の巻

五月は伊佐木の話です。

この魚ほど話のネタの多い魚もありません。暖海の水の澄んだ岩礁帯や、比較的浅い海に棲む魚で、釣りの対象として大変人気のある魚です。関東から南に多い魚で、特に九州で多く獲れ、姿が美しい上に、惣菜として焼き魚、刺身に人気のある”魚らしい魚”です。よくうまい魚のことを「寒鰤、寒鯔、寒鰈」とか、「麦藁ダコに祭りハモ」などといって、昔から伝わるたとえに「梅雨鶏魚」と言われるほど、六月、七月の伊佐木は旨いんです。夏場になると伊豆諸島から形の大きな伊佐木が入ってきて、これも旨いんです。伊佐木の他に漢字で鶏魚が当てられることがありますが、これは背ビレのところから鶏のトサカに似ているので、この字が当てられたと言われています。伊佐木には地方名がおおく、イサギ、シャミセン、ウドンブシ、ハンサコ、ツンテン、いったあぐいで、和歌山県ではカジヤゴロシと呼ぶところがあるそうです。その昔、伊佐木の骨が喉に刺さって取れず苦しんで死んだ鍛冶屋がいたのでのこの名がついたと言われています。同じ様に博多では「伊佐木は北向きで食べろ」というがら、そのわけは、「伊佐木のヒレと骨は硬くて鋭く、喉に刺さって命取りとなって北まくらに寝かされる」からだとらという話も聞きます。

伊佐木の旬は晩春から初秋にかけてで、晩秋から冬には別の魚になったかと思えるくらい、味が落ちるといわれています。しかし、高知・愛媛はじめ大分・長崎など養殖が盛んになって、鯛や平目などと同じ様に旬が変わってくる様な気がしてなりません。

旬の伊佐木は刺身が一番です。皮を引くと鮮やかな紅色の紋様が現れます。この色の美しさを大切に盛り付けて下さい。ツマを添えて。

刺身になくてはならなきのがツマです。大根や胡瓜の細切りや海藻が刺身の色を鮮やかに際だたせます。

伊佐木の身の白さと、皮の目の紅らつまの緑が映えるのはこの時てます。

ですが、ツマは色彩の効果ばかりではありません。魚にはタンパク質や脂質は豊富ですが、ビタミンやミネラルは少なく、食物繊維はありません。ツマはこれらの不足を補い、さらに魚の生臭みを消し、口直しをすると同時に季節感を表現し、風味を増す役割もあります。主人役の刺身を盛り立てるのが妻の内助の功です。今月、伊佐木の脇役にはオゴノリが似合います。

おごのり(海髪)の巻

おごのりは日本全国の沿岸、特に関東から中部にかけて分布する海藻で、内湾に多く生育しています。東京ではウゴと呼んでいますが、オゴが本名です。生では黒赤色や暗褐色ですが、石灰か灰汁でアルカリ処理し茹でると緑色になります。緑というより、”木賊色”です。海藻は沃度やミネラル、ビタミン類がおおく、しかもカロリーが少なく、歯切れ、香りが爽やかで、”良い事ばかり”の健康食品として女性を中心にもてはやされている理由にもなっています。これからは”ツマ”もいっぱいたべちゃおー‼︎

トビウオ(2009年4月号)

飛び魚

今月は飛び魚の話をしましょう。

トビウオ科の魚は、日本周辺に約30周が分布しています。築地の市場には体長50センチにもなるハマトビウオや、日本海方面から夏場に入荷する小型のツクシトビウオ、これもの端に伊豆諸島近海から入荷するトビウオなどが私たちに馴染みのある飛魚です。

この中でもハマトビウオは主流で「カクトビ」等と呼ばれて親しまれています。2月下旬頃から築地に入荷しはじめ、四月、五月がで盛りで、あっさりとした白身魚で、脂肪分も少なく、味のある魚ですが、売っている私(達)に言わせると、いまひとつ人気が出ない魚の1つでもあります。

昔、昭和30年代でしょうか、八丈島から入荷するトビウオのセリ場での人気は大変なもので、セリには掛けず、割り当てのような形で、店で裏に隠してお得意様に配るように売った記憶があります。魚屋さんの全盛の時代でしたの売れたでのでしょう。

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サクラダイ(2009年3月号)

桜鯛

よく目の下一尺と表現されるマダイが最高といわれます。

これは目方で1.5~2.0㎏、体調35~40㎝位の魚を指します。丁度この大きさのマダイが色よし、姿よし、味よしと三拍子揃った魚の王様でもあるわけです。「桜ダイ」とか「花見ダイ」等の名は、この時季に咲く桜の花にあやかって付けられた「春の旬」を表した、他の魚にはない美しい名前です。名前もさることながら体の色も素晴らしいものをもっています。桜色です。この様な魚が、まずかろうはずがありません。

産卵期の前の、栄養を一番蓄えている「春先き」です。旨いです。旬ですもの。

しかし、一月もしないうちに産卵を終えたマダイは、蓄えた養分と体力を消耗し尽くし、身はやせ細り、産卵前に比べ、味が格段におちてきます。この時期のマダイを「麦わらダイ」とつれない名をつけてしまいます。タイの方も大変です。9月半ばを過ぎると餌を食べ始め、栄養をとり、体力を整えて秋の旬を迎えます。この様に季節の変わり目に名前が変わる魚が多いのは、それぞれの魚に「旬」があるからで、私たちの食生活に変化や喜びを与えてくれる魚に感謝しなければなりません。

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初鰹の句(2008年4月号)

初鰹の句

「目には青葉山ほととぎす初鰹 素堂」

江戸時代に詠まれた山口素堂の句が、現代でも生き生きと思い浮かぶ様な、初鰹の言葉がぴったりの季節になりました。

初荷と初鰹が築地の市場で使われる『初』の字のつく言葉と書きました。以前、秋刀魚にも初の字をつけた時がありましたが、「ひね」(広辞苑には前年以前にとれた殻物とあります)が出て新旧を区別するために、今年とれた秋刀魚に『新』を付けて新秋刀魚と呼ぶ様になりました。漁期の短い秋刀魚に比べて鰹の場合、一年中どこからでも入荷する魚河岸で、初鰹の名付けをするとすれば、時は五月、目には青葉の頃、漁場は「房州か、相模の」これが初鰹の旬です。

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