Category: 夏の魚の話をしましょう (page 4 of 6)

細長い魚の巻(2012年8月号)

細長い魚の巻①

今月は細長い魚を集めました。似たような魚が多い中で見分け方についてお話します。その前に、魚の体の形を五つに分けて紹介します。

水の抵抗を少なくして、速く泳ぐのに適した形で、マグロ・カツオ・ブリ等が紡錘形の魚です。

側扁形の魚は、背腹の方向(体高)に高く、左右の幅が薄くなった形です。タイ類やキンメダイ、チョウチョウ類がこの形の魚で、急に動き出したり方向を変えるのがうまく、岩場やサンゴ礁のような複雑な地形のところで生活しています。

縦扁形の魚は紡錘形の魚が背腹の方向に平たくなり、左右の幅が広くなった形です。エイ・コチ・アンコウなど海底で生活する魚に多く、底にいるときの体への安定がよいだけでなく、体の影ができないので、上からの敵に発見されにくく、底での生活に都合がよい形といえます。

ヒラメの仲間はその形に似ていますが、背骨の形をマダイ(側扁形)とコチ(縦扁形)のものと比べてみると、マダイの方によく似ていてヒラメが側扁形であることがすぐわかります。つまり、ヒラメは縦扁形の魚のような生活をする側扁形の魚ということになります。

四番目は今回紹介する細長い魚、ウナギ形です。紡錘形を前後に引き伸ばした形で、ウナギ類(ウナギ・マアナゴ・ウツボ・ハモ他)の細長い形は、砂や泥の中にもぐる習性に合わせて発達したと思われます。体を長くするだけでなく、たくさんの背骨も必要です。最後はフグ形です。紡錘形を前後に押しつぶした形で、卵形や球形のものです。代表はフグ類やホテイウオで、この形の魚の動きは大変ゆっくりです。

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カレイ(2012年7月号)

カレイの巻

暑さで食欲の落ちる夏には、さっぱりとした白身魚が好まれる様で、魚の方から召し上がって下さいと市場においしい魚たちが入荷しています。鱸・鯒・鶏魚・石鯛・鱧・真子鰈・魳・鱚・穴子・みんな夏に旨い白身魚です。今月は鰈の違いとか、真子鰈と真鰈の違い等が気になって、これを機に魚の見分け方を話していきます。

まず、真子鰈の紹介です。

日本周辺にはおよそ40種のカレイ種が分布していて、そのすべてが食用になります。一般にカレイの旬は秋から冬ですが、この真子鰈は夏が旬です。北海道南部から九州までの内湾の砂泥底に棲んでいて、大きいものは35cm位になります。

東京湾の真子鰈も有名ですが、大分県日出の真子鰈は名物です。シロシタガレイ(城下鰈)と名が付けられていますが、特別な種ではなく、真子鰈そのものです。日出の湾内には湧水があって、そこに棲む真子鰈は海水と湧水の混じった環境に適応し、しかも良い餌に恵まれ、すばらしい味のシロシタガレイになったのです。残念ではありますが、この年になるまで、試食に至りませんでした。このカレイも夏場が旬です。

湾内(東京湾)の真子鰈も今が旬で、美味しいです。刺身や寿司種・煮付・唐揚・蒸し物等あらゆるカレイ料理に向きます。目板鰈も同じ場所で上っていますが、共に肉も厚く、同じような料理方法で召し上がれます。今日は真子鰈の煮汁を食べて下さい。食べさせて下さい。食べ終った後の煮付けに、お湯を足して細かな身と飲んだあの旨さは忘れられません。唐揚もいいです。鰈を五枚におろして、片栗粉を付けて中温の油で揚げます。時間はおよそ骨で八分、身で1分半位。天つゆに大根おろしとおろし生姜を添えて、夏の暑さを吹き飛ばします。

本題に入ります。まず平目と鰈の違いです。以前は“大きいのが平目で、小さいのが鰈”とか“高いのが平目で、安いのが鰈”なんて無責任極まりない話を聞いたことがありましたが、“左ヒラメ、右カレイ”が通り相場のようです。鰓の切れ込みがある方を下にしたとき、目が左側にあるのが平目、右側にあるのが鰈という意味です。私は口を見て、と教えてきました。平目は魚食住のため、口が大きく、怖い顔をしています。鰈はゴカイ類などを食べるので口は小さく、可愛い口をしています。平目に“大口”、鰈には“口細”の別名もある位です。いずれも例外はあるようですからご注意を。相違点を書きましたが、共通点もありますよ。まず、砂泥底に生息しているため無眼側は普通純白なこと、それに“夏座敷とカレイは縁側がよい”という諺があります。暑い夏の座敷では床の間を背負うより風通しのいい縁側がよく、カレイも縁側がよいという意味です。この縁側は背鰭と臀鰭を動かす筋肉のことで、この言葉はカレイ目魚類以外では使いません。

真鰈との違いです。“カナ”で書いても、真鰈のほうが一字足りません。魚を扱っているものなら兎に角、一般の方には間違いやすい名付け方です。見た目では、形・大きさに差は然程ありませんが、無眼側(白い方)の背腹両線が黄色なのが真鰈で、純白なのが真子鰈です。味は私の口から申すまでもなく、カレイの双璧で、夏の真子鰈に対して、秋から冬に獲れる真鰈は味がよく、煮付・唐揚は絶品です。

アユ(2012年6月号)

日本全国ほとんどの地域(河川)で6月1日前後が解禁日です。鮎の話です。

まず、魚名の由来です。日本最古の歴史書「古事記」(奈良時代712年)の仲哀天皇の章に、神功皇后が着物の糸を抜きとって、飯粒を餌にして年魚(アユ)を釣った話が出ています。

「日本書紀」の「神宮皇后 摂政前記」では、この釣りの時、戦の幸先を占った事が記されていて「もしこの戦に勝つのであれば、餌を食べよ」と。これが、後に本来中国ではなまずを示す鮎がアユに当てられた理由といわれています。

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安心・安全(2011年8月号)

「安心・安全」

 

各々方、ご油断召されるな。夏の峠は越したとは云え、まだ八月、来月九月は一年でも、三指に入る食中毒の多い月です。私達が扱う魚の生食が関係する食中毒は、平成18年を境に激減した腸炎ビブリオ食中毒です。完全に無くなる菌ではないので、油断すれば大量に発生する可能性もあるわけです。東京都の衛生検査所の先生方の毎日の市場内巡視・監視により、今日では安全といえる状況です。本当にありがとうございます。東卸の広報文化委員会でも永年にわたるラジオ・テレビや魚市場セミナー・魚教室等を通して啓蒙しているところです。腸炎ビブリオ中毒についても一度勉強してみましょう。病原性の好塩菌と呼ばれるこの菌は、ごく自然に海水中に生息していて、ごく自然に沿岸の魚介類に取り込まれます。アジ・イカ・タコのような沿岸の魚類の生食が原因であることが多いようです。この菌は、名の通り塩水は好きですが、真水を嫌う性質を持っていますから、漁獲された魚を真水で洗い、付着した菌を洗い流せば食中毒の発生は防げます。又、熱に弱い性質もあります。冷凍しても死にません。冬には好塩菌は殆ど生息せず、夏であっても鮮魚を10℃以下に保存させれば安全です。しかし、17℃以上になってしまうと、温度が1℃上昇する毎に倍々に増殖してしまいます。もし好塩菌が繁殖したとしても60℃で10分加熱することで死滅させることができます。

 

ここから余談になります。

昭和30年代の近海物セリ場は、毎日、活きの良い魚が入った木樽が山の様に積まれ、足の踏み場もない位で、それは壮観でした。木樽も40kg以上入る逆さ樽、37kg10貫目入りの他、30kg(8貫目入)の水戸樽。その樽が互い違いに二段三段と積み込まれて岸壁の方まで広がっていました。小鯵の入った樽から一匹つまんで、頭、内臓、背ビレ、腹ビレを取り、皮をむけばきれいな鯵の姿造で、猫がくわえるようにパクリと。ヒイカという小さなイカが常磐から入ってきました。皮をむいてほうばります。ホヤに小刀を入れ、中身に齧付きます。鮪の尾の切り口を穿って味見をしている人もいました。今、衛生の先生が見られればきっと注意されるでしょう。でも誰一人として、おなかをこわしたり病気になった人はいません。生で食べて良いものか、わるいものか、判断する知識と身体を親から授かったと私は思っています。牛・豚を生食では出荷してはいけないのに、生食で食べて中毒を起こしたり死者まで出すとは。うちの子はグルメだからと身体のに抵抗力のない子供にユッケを食べさせる親が悪いと、極端ですが私は思います。

時恰も、新潟、福島の水害です。信濃川水域で堤防が決壊して避難指示や勧告が39万人に出されました。水害に遭われた方にはお見舞い申し上げます。しかし、勧告を受けた人の何割の人が「安心・安全」を求めて避難したのでしょうか。

安心・安全が果たして、言葉通り信頼出来る安心・安全なのか、食中毒の話も含めて考え直さなければならないと思います。

メジ(2011年7月号)

メジ

 

「魚の話をしましょう」

を書き出してから、私が取り扱った魚以外の魚、即ち、専門外の魚が数多くあることに気が付き始めました。

しかし、その事に怯まず、私の頭を始め、目・耳・口等からの知識を駆使して、これに挑戦して行こうと思いますので、ご指摘等ありましたら、遠慮など、勿論しないでしょうが、お申出下されば幸いです。

今月は「鮢」です。

クロマグロの幼魚のことで、背側は青黒色で、腹側は灰銀色、腹側に十数条の横縞が出るところから、関西では「ヨコワ」と呼ばれています。ここでご注意。カツオの縞模様は「縦縞」ですよ。同じ祖先(魚)から進化した脊椎動物のしくみを考える時、アジやマグロ、ウシ、ヒト等、脊椎骨(背骨)があることがその証拠です。この脊椎骨に沿って走っている縞模様は縦縞です。ニューヨークヤンキースのユニフォームは縦縞です。石鯛の縞模様は横縞です。横縞が出る前の1~2kgの小型の魚をメジといって、あまり市場外に流通しない魚だったことを憶えています。横縞が出る頃、ほっぺたから胸ビレあたりに赤み(桃色)がさしてくると、うっすら脂ものって、薄桃色の刺身にも赤みが増して、今、死語になりつつある「玄人好み」の魚になります。

メジより大きい魚を「中坊」とか「小マグロ」又この先を「シビ」と呼び名を変えてきます。マグロの種類には、今までお話をしてきたクロマグロの他、ミナミマグロ、メバチ、キハダ、ビンナガ、コシナガ等がいますが、メバチマグロとかキハダマグロなどの名が市中に横行しているのを見聞すると腹立たしさを覚えるのは年のせいかも。「お父さん、血圧が上がりますヨ」と嫁にいつもいわれています。まして、メジにマグロをつけて、メジマグロとか。メジはメジでいいのです。カジキはカジキでいいのです。カジキはマグロではありません。

何でも有りが幅を利かせていますが、社会の規則・常識を守って生活したいのもですね。その一つに「ら抜き言葉」があります。「食べられない―食べれない」「来られる―来れる」「考えられない―考えれない」、話し言葉か、書き言葉かによって違う面もありますが、私達には聞きずらい言葉です。テレビの画面にテロップで正しい?言葉で流されているのを見ても「ら抜き」は間違いと思います。地方によっては「ら抜き」を多く使う地域があるようですが……。

「半疑問」も聞きずらい言葉です。話し言葉の中で、言葉の端にイントネーションを上げて喋る、よく料理番組の先生が使っていたのを記憶しています。

 

【追伸】

刺身のつまに、そうめんの薬味に、茗荷が旨い季節です。独特の香味と辛味が身上です。茗荷を食べて健忘症となるなんて話はまっ赤なウソ。物忘れは年のせいです。

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